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電力自由化の成否はまだわからない
電力自由化は果たして成功したのか?それとも失敗なのか?
この答えはそれぞれの人の立場によって異なります。
大手電力会社の関係者だと「昔の方が良かった=失敗」と考える人も多いでしょう。
自由化後に登場した新電力会社の関係者には「失敗と決めつけるのは早計」と考える人も居ます。
新電力会社に変えたことで実際に電気代が安くなっている消費者からすれば、成功と見えるかもしれません。
日本全体での電力自由化の成否を考えると「それはまだわからない」というのが実際のところです。
そもそも、電力自由化(=電力小売りの全面自由化)は国の電力システム改革における施策の一つでしかありません。
- 小売及び発電の全面自由化
- 電源の広域系統運用の拡大
- 法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保
日本の電力システム改革はまだまだ道半ばであり、以下の3点を主な目的として様々な施策が予定されています。
電気代は昔より高くなっているのでは?
「10年前と比べて今の電気料金の水準は高くなっている」
「だから電力自由化は失敗である」
といった意見もあるようですが、、
電力自由化は「電気料金を安くするため」というより「値上げの抑制」を目的としています。
昔よりも料金水準が上がっているとはいえ、それが世界情勢や物価の上昇に伴うものである以上、電力自由化を失敗とする理由にはなりません。
電力自由化はあくまでも(電気料金の)値上がりの最大限の抑制のための手段の一つなのです。
「事業機会の拡大」という意味では成功
国の電力システム改革には「電気料金の値上げ抑制」の他にも「電力の安定供給の確保」や「電気利用の選択肢や企業の事業機会の拡大」といった目的があります。
「電気利用の選択肢や企業の事業機会の拡大」という面では電力自由化による貢献は大きく、これはまぎれもなく成功と言えるでしょう。
「安定供給の確保」という意味ではまだわからない
ただし「電力の安定供給の確保」に関しては、その成否を判断するにはまだ早計です。
先ほども説明したように、電力システム改革の全体方針としては以下の3つの柱があります。
- 小売及び発電の全面自由化(今後も市場整備の予定あり)
- 電源の広域系統運用の拡大(今後も推進予定あり)
- 法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保(様子見?)
これらの改革がまだ道半ばである以上、①の電力自由化によって「安定供給の確保」や電力システム改革そのものが失敗したと断定することはできません。
ただ、電力システム改革はまだ道半ばなのです。
容量市場で取引された電気の供給が実際に始まるのは2024年度ですし、需給調整市場も始まっているのはその一部です。
電力システム改革全般の評価は、すべてがそろった時点でなされるべきでしょう。
電力業界の最大の失敗とは?
話は少し横にそれますが、、
電力業界における最大の失敗は何なのか?
ご存じでしょうか?
それは東日本大震災における原子力発電所の大事故であり、それこそ取り返しのつかない明らかな失敗です。
その他、関西電力株式会社における多額の金品受領問題をはじめとした業界の隠蔽体質も大きな問題でしょう。
(※)隠蔽体質(いんぺいたいしつ):不都合なことは秘匿して外部に漏らすまいとする考え方や組織のありようを示す表現原発事故や電力業界の隠蔽体質は、どちらも地域独占や総括原価方式を長く続けてきたことによる弊害と考えられています。
電力自由化の成功・失敗を判断する以前に、この明らかな失敗を引き起こした要因を何とかしなければなりません。
地域独占や総括原価方式にはプラスの側面もあるとはいえ、マイナス面を改善する意識や反省がないようでは、過去と同じ失敗を繰り返すばかりです。
総括原価方式とは原価を基準とし、さらにその上に報酬率を上乗せさせることにより料金を決めるやり方です。
つまり、最初から総収入と総括原価が釣り合うように計算しているので赤字になる心配が少なく、長期的な経営計画や設備投資計画を立てやすいことがメリットとして挙げられます。
"電力自由化のせい"で電気代が高くなって日本がおかしくなっていく、と言う人も居ますが、、
何度も言ってるように、2011年の”原発事故のせい”で火力発電に依存せざるを得なくなったから電気代が高くなっているのです。
自由化の影響がほぼない沖縄を見れば、高騰が自由化のせいかどうか分かります。— N|電気ガス料金比較アドバイザー (@taizo1974) December 5, 2022
今の電力会社が求められていること
地域独占の時代には、私たちに「他の電力会社を選ぶ」という選択肢はありませんでした。
そのため電力会社のサービス内容や担当者に不満があっても、当時の一般市民は文句を言うことくらいしかできませんでした。
しかし今は何かしら不満があれば、私たちはいつでも他の電力会社(=小売電気事業者)に変えることができます。
今の電力会社(=小売電気事業者)は、市場競争の中で常にサービス向上を求められています。
(※)市場競争:企業が財やサービスを供給する市場へ自由に参入し、消費者を獲得するため価格や品質面などで他の企業と競い合うこと
電力業界に係わる人は国の政策の成功失敗を論ずる前に、その事実を謙虚に受け止める必要があるでしょう。
そうでなければより良い方向に進むことはできません。
一般市民も求められている
私たち一般消費者も電力自由化を通じて求められていることがあります。
昔は電気について特に意識する必要もなく、電力会社に言われるまま電気契約を結んでも問題はありませんでした。
今はそういった姿勢ではいけません。
世帯人数や生活パターン、使用する電気機器などによっても適切なプランは全く異なるため、他者から言われるまま契約をするようでは損をするばかりです。
自由化後の社会では電気の契約も自らの責任で選ぶことが重要となっています。
これからは日本のエネルギー事情にも思いを向けつつ、より適切なエネルギーライフを選択するといった主体的な行動を、よりいっそう求められるようにもなるでしょう。
こういったことを理解している人や企業にとっては電力自由化は成功の糧となり
理解できない人には失敗と映るのかもしれません。
(電力自由化が)これほど活性化したのは「大手電力会社が『限界費用』で一定量の電力を卸売市場に売り出すように政府から求められたことが大きい」と東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所の戸田直樹チーフエコノミストは指摘する。
筆者は電力自由化自体に問題があるというよりは、この「政府の求め方」に何かしらの問題があったのではないかと推察します。
2019年から続いたパンデミックや2022年のロシアによるウクライナ侵攻など、発電燃料の安定供給を揺るがす想定外の出来事が続いたとはいえ、官民連携の稚拙さが関係各位に禍根を生じさせる原因となったのは間違いないでしょう。